睡眠時無呼吸症候群におけるAHI数値とは?重症度分類や検査方法まで徹底解説

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睡眠中に無呼吸や低呼吸を繰り返す「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」。この病気は放置すると日中の眠気や集中力の低下だけでなく、高血圧や心不全、脳卒中などの重大な疾患に発展することもある、非常に危険な睡眠障害です。

そんな睡眠時無呼吸症候群の診断や重症度の判定に使われるのが「AHI(Apnea Hypopnea Index、無呼吸低呼吸指数)」という数値です。この記事では、AHIの定義から重症度分類、数値が高い場合のリスク、検査方法、そして改善方法までを詳しく解説します。

AHI(無呼吸低呼吸指数)とは何か?

AHIとは「Apnea Hypopnea Index(無呼吸低呼吸指数)」の略称で、1時間あたりにどれだけの無呼吸(Apnea)および低呼吸(Hypopnea)が起きたかを数値化したものです。

具体的には、以下の定義が基準とされています。

  • 無呼吸(Apnea):10秒以上にわたり、気流が完全に停止する状態

  • 低呼吸(Hypopnea):10秒以上の気流の減少(約50%以上)と、血中酸素飽和度(SpO2)の3〜4%以上の低下、または覚醒反応を伴う状態

このAHI数値は、睡眠時無呼吸症候群の診断基準として、国際的に広く用いられています。

AHI数値による重症度分類

AHI数値が高ければ高いほど、無呼吸・低呼吸の回数が多く、睡眠の質が著しく低下していることを意味します。日本睡眠学会やアメリカ睡眠医学会(AASM)の基準によると、以下のように重症度が分類されています。

  • AHI 5未満:正常または軽度の異常

  • AHI 5〜15未満:軽度の睡眠時無呼吸症候群

  • AHI 15〜30未満:中等度の睡眠時無呼吸症候群

  • AHI 30以上:重度の睡眠時無呼吸症候群

この分類によって、医師はどのような治療が必要かを判断します。例えば、軽度であれば生活習慣の改善を中心とした対処で済むこともありますが、中等度以上になるとCPAP療法などの積極的な治療が推奨されます。

AHI以外の指標との違い

睡眠時無呼吸症候群の評価にはAHIのほかにもいくつかの指標があります。その中でも代表的なのがODI(Oxygen Desaturation Index)とRDI(Respiratory Disturbance Index)です。

  • ODI:血中酸素飽和度が一定以上(通常は3〜4%)低下した回数を1時間あたりで示す数値。AHIとよく似ていますが、呼吸の停止がなくても酸素が下がる場合に反映されることがあります。

  • RDI:AHIの内容に加えて、呼吸努力関連覚醒(RERA)も含む。より包括的に睡眠の質を評価できるが、PSG(ポリソムノグラフィー)でしか測定できません。

つまり、AHIは簡便かつ重要な基準である一方、他の指標と組み合わせてより正確な診断を行うことが推奨されます。

高血圧

睡眠中に何度も繰り返される無呼吸や低呼吸は、身体に酸素不足のストレスを与えます。このような低酸素状態が繰り返されると、交感神経が活発になり、常に「緊急事態」として身体が反応する状態になります。その結果、心拍数や血圧が上昇し、特に睡眠中から起床時にかけての血圧変動が激しくなります。これが慢性化すると、起床後も高血圧状態が持続しやすくなり、日中の血圧にも影響を及ぼします。特に「早朝高血圧」と呼ばれる状態は、脳卒中や心筋梗塞のリスクを大きく高めることが知られています。睡眠時無呼吸症候群は、こうした高血圧の直接的な原因となるため、適切な治療を行わなければ合併症のリスクが飛躍的に増大するのです。

心不全

睡眠中に呼吸が止まることが繰り返されると、心臓は絶えず酸素不足にさらされることになります。心臓は全身に酸素を運ぶために常に動いていますが、無呼吸状態では十分な酸素を供給できず、ポンプ機能に過度な負担がかかります。これが長期化すると、心筋の疲労や機能低下を引き起こし、心不全へとつながるのです。特に、拡張型心筋症や心房細動などの既往がある場合、睡眠時無呼吸症候群の存在は症状を悪化させる大きな要因となります。近年では、心不全患者に対してSASのスクリーニングを行うことが推奨されており、重症化を防ぐうえでAHI数値の把握が非常に重要です。心臓と呼吸の連動は非常に密接であるため、睡眠中の酸素供給を確保することが心不全予防の鍵となります。

脳卒中

睡眠時無呼吸症候群によって引き起こされる脳への影響も深刻です。無呼吸による酸素不足は、脳の血管を収縮させる一因となり、血流の低下を招きます。また、酸素供給の不安定さは、脳の自律神経系にストレスを与え、血圧の乱高下を引き起こす原因となります。これが結果的に血管壁の損傷や炎症を引き起こし、血栓の形成を助長します。特に深夜から早朝にかけては血栓性脳梗塞の発症が多い時間帯と重なるため、AHI数値の高い人は脳卒中のリスクが高いとされています。実際に、SASのある人はそうでない人に比べて脳卒中の発症率が2倍以上になるという報告もあり、無視できない問題です。

糖尿病の悪化

無呼吸が頻発すると、血中酸素濃度が断続的に低下するだけでなく、睡眠の質も著しく低下します。こうした状態が続くことで、身体は恒常的にストレスホルモンを分泌し、血糖値の調整機能に影響を与えます。さらに、深い睡眠が阻害されるとインスリンの感受性が低下し、血糖値のコントロールが難しくなるのです。これにより、2型糖尿病の発症リスクが高まり、既に糖尿病を持っている人では病状が悪化する可能性があります。また、睡眠不足によって食欲を増進させるホルモンの分泌が増え、過食や体重増加を招くことも、糖尿病の悪化要因となります。SASと糖尿病は相互に悪影響を及ぼす関係にあるため、どちらか一方だけの治療では不十分であり、包括的な対応が求められます。

うつ病や認知症

慢性的な睡眠の質の低下は、精神的な健康にも深刻な影響を及ぼします。特に、睡眠時無呼吸症候群が原因でノンレム睡眠(深い眠り)が妨げられると、脳内の神経伝達物質のバランスが崩れ、抑うつや不安感が出現しやすくなります。加えて、記憶の整理や情報の定着を担う「海馬」の働きも低下し、認知機能の衰えが現れる可能性があります。実際に、SASを有する高齢者では認知症の発症率が高いという研究結果も報告されており、特にアルツハイマー型認知症との関連性が注目されています。また、睡眠時に脳の老廃物を除去するグリンパティック系の働きが低下することで、神経変性疾患のリスクも高まると考えられています。

AHI数値の測定方法と検査の流れ

AHIを測定するには、主に次の2つの方法があります。

ポリソムノグラフィー(PSG)検査

病院や睡眠クリニックで一晩かけて行う検査で、脳波・心電図・呼吸運動・酸素飽和度など複数の生体信号を同時に記録します。最も精度が高く、SASの診断のゴールドスタンダードとされています。

自宅での簡易検査(簡易PSG)

専用の検査キットを自宅に持ち帰り、鼻や指にセンサーを装着して一晩眠ることでデータを取得します。病院に泊まらなくても簡単に検査でき、軽症から中等度までの判定には十分な信頼性があります。

AHI数値を改善するには?

治療法は重症度に応じて異なりますが、以下のようなアプローチが一般的です。

CPAP(シーパップ)療法

就寝中に鼻に装着したマスクから空気を送り込み、気道の閉塞を防ぐ治療法です。AHIを著しく改善する効果があり、中等度〜重度の患者には第一選択となります。

マウスピース(スリープスプリント)

軽度〜中等度の患者に使われ、下顎を前方に出すことで気道を広げ、無呼吸の発生を防ぎます。携帯性に優れ、CPAPに抵抗感のある人に人気です。

外科的手術

扁桃腺肥大や鼻中隔弯曲などの構造的問題が原因となっている場合、手術による根本治療が行われることもあります。

生活習慣の見直し

肥満や喫煙、過度な飲酒はSASの悪化要因です。体重の5〜10%減少でもAHIが改善した事例は多数報告されています。横向きで寝ることや、就寝前の飲酒を控えるといった工夫も有効です。

よくある疑問Q&A

Q. AHIが5以下なら安心してよい?
→ 基本的には正常とされますが、日中の強い眠気や不眠の症状があれば医師に相談しましょう。

Q. 自覚症状がなくても検査を受けるべき?
→ はい。睡眠中の異常は自覚しづらいため、いびきや昼間の眠気、集中力の低下があれば検査を受ける価値があります。

Q. スマートウォッチでAHIは測れる?
→ 一部の製品で近似値を測定する機能がありますが、正確なAHIの診断には医療機関での検査が必要です。

まとめ:AHIを知ることが健康への第一歩

AHI数値は、睡眠時無呼吸症候群を評価する上で最も基本的かつ重要な指標です。この数値を知ることで、自分の睡眠の質や健康状態を客観的に理解でき、適切な治療や生活改善につなげることができます。

睡眠中の健康は、日中のパフォーマンスだけでなく、将来の病気リスクにも大きな影響を与えます。「なんとなく眠りが浅い」「いびきがうるさいと言われた」など、少しでも気になる症状があれば、まずはAHIの検査を受けてみることをおすすめします。


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